新発田市の街を歩いていると、かつて映画館があった場所に思いを馳せる市民の方も多いのではないでしょうか。
映画を楽しむために新潟市まで足を運ぶ日常が当たり前になって約20年。
そんな中、新発田市に映画館の復活を求める市民の声が大きなうねりとなっています。
2024年秋に始まった署名活動は、2025年6月時点で目標を大きく上回る11,310人の賛同を集めました。
この数字は新発田市の人口約91,000人の約8分の1にあたり、市民の強い願いを物語っています。
この記事では、新発田市の映画館署名活動について、活動の詳細から地域が抱える課題、そして今後の展望まで、2025年6月現在の最新情報をもとに詳しくご紹介します。
新発田市の映画館署名活動が目標10,000人を突破
新発田市で進行中の映画館復活を求める署名活動が、当初の目標を大幅に上回る成果を上げています。
市民有志による地道な活動が、多くの人々の共感を呼んでいます。
『新発田に映画館をつくる会』の署名が計11,310人分に
2024年秋に結成された『新発田に映画館をつくる会』による署名活動は、累計で11,310人分の署名を集めることに成功しました。
団体名:『新発田に映画館をつくる会』
代表者:椎谷和男さん(会長)
設立時期:2024年秋
メンバー数:約10人
署名総数:11,310人分(2025年6月現在)
同会は新発田市の椎谷和男さんを会長とし、友人や知人ら約10人のメンバーで構成されています。
活動開始時の目標は6,000人でしたが、市民の反響の大きさを受けて10,000人に上方修正し、最終的にはその目標も突破する結果となりました。
署名活動は主にメンバーの人脈を活用した協力呼びかけ、友人・知人を通じた署名用紙の配布、家族単位での協力体制、口コミによる活動の拡散といった地道な手法で行われています。
2025年5月に追加3,810人分を副市長に提出
署名の提出は2回に分けて行われました。
最初の提出は2025年1月31日に二階堂馨市長に対して7,500人分を手渡し、続いて2025年5月中旬には伊藤純一副市長に追加の3,810人分を提出しています。
2回目の提出時、椎谷会長は「この何倍もの人が映画館を求めていると感じている」とコメントしており、署名に協力していない市民の中にも同様の願いを持つ人が多数いることを示唆しています。
新発田市は署名を受けて、映画館運営などを手がけるイオングループに署名を提出する方針を示しており、市民の要望を企業側に伝える役割を果たすとしています。
県北地域から山形県まで広がる賛同の輪
注目すべきは、署名が新発田市内だけでなく、広範囲から集まっていることです。
新潟県内では新発田市を中心として村上市、五泉市、胎内市、その他県北地域から賛同が寄せられています。
さらに県外からは山形県小国町からも署名が集まっており、新発田市の映画館不在が周辺地域にも影響を与えていることを示しています。
この広がりは、新発田市の映画館復活が地域全体にとって重要な意味を持つことを物語っています。
特に山形県小国町からの署名は、県境を越えた文化圏としての結びつきを表しており、広域的な需要の存在を示しています。
署名活動の経緯と市民の声
目標を上回る署名数を達成した背景には、市民の強い想いと効果的な活動展開がありました。
半年という短期間での成果の軌跡を詳しく見ていきます。
2024年秋の結成から半年で目標達成の軌跡
『新発田に映画館をつくる会』の活動は以下のように展開されました。
- 2024年秋:活動開始 – 椎谷和男さんと友人・知人ら10人ほどで会を結成、当初目標を6,000人に設定
- 2025年1月1日:中間成果 – 署名数が5,000人を突破、市民の反響の大きさから目標を見直し
- 2025年1月31日:第1回提出 – 7,500人分の署名を二階堂馨市長に提出、目標を10,000人に上方修正
- 2025年3月末:当初終了予定 – 予定していた活動期間を延長、さらなる署名獲得を目指す
- 2025年5月中旬:第2回提出 – 追加の3,810人分を伊藤純一副市長に提出、累計11,310人で目標を大幅に上回る
この活動展開において重要なのは、市民の反響を受けて柔軟に目標や期間を調整していることです。
当初の予想を超える賛同が得られたことで、活動の規模と期間が拡大されました。
「何倍もの人が映画館を求めている」市民の声
椎谷会長は2025年5月の追加署名提出時に「この何倍もの人が映画館を求めていると感じている」と述べています。
この発言は、署名に参加していない市民の中にも同様の願いを持つ人が多数存在することを示唆しています。
会の結成当初、椎谷会長は新潟日報の取材に対して「昔は新発田市内にいくつも映画館があり、映画が身近な存在だった。映画を見る機会が失われるということは、文化的な損失と言っていい」と語っており、活動の根底には文化継承への強い思いがあります。
市民からの具体的な反応として、家族単位での署名協力、友人・知人を通じた活動の拡散、県外からの賛同、幅広い年齢層からの支持が見られ、地域を超えた共感を呼んでいます。
市民が期待する新発田市の文化環境向上
署名活動の背景には、新発田市の文化環境向上への期待があります。
映画館の復活は単なる娯楽施設の誘致を超えて、城下町新発田の文化的豊かさの回復、市民の文化的体験機会の拡大、地域アイデンティティの強化といった文化的側面での意味を持っています。
また、世代を超えた共通の娯楽空間の提供、家族や友人との時間を過ごす場の創出、地域コミュニティの結束強化といった社会的側面でも重要です。
さらに、市内での消費機会の増加、周辺商業施設への波及効果、若年層の地域定着促進といった経済的側面でも期待されています。
現在、新発田市では『イクネスシネマ』として月1回の無料上映会が開催されていますが、これは図書館所蔵のソフトを使用した限定的なものです。
市民が求めているのは、最新作品を含む多様な映画を継続的に楽しめる本格的な映画館です。
新発田市が20年間映画館空白地域となった経緯
新発田市が現在の映画館不在の状況に至った背景には、地方都市共通の課題と地域特有の事情が複合的に関わっています。
2005年『シバタ文映』閉館で始まった映画館不在
新発田市最後の映画館『シバタ文映』は2005年春に閉館しました。
同館は1947年に開館し、約58年間にわたって新発田市民に愛され続けていました。
開館:1947年
閉館:2005年春
場所:新発田駅前から伸びる商店街(現在の市役所近く)
営業期間:約58年間
特徴:地域密着型の映画館として長年運営
閉館の背景には、一般的に地方の映画館が直面する大型ショッピングセンター内シネコンとの競争激化、建物・設備の老朽化、来館者数の減少、経営環境の悪化といった課題がありました。
2005年は皮肉にも、新発田市にイオンモール新発田が開業した年でもあります。
このタイミングの一致は、地方都市における商業構造の変化を象徴的に表しています。
かつて愛された新発田の映画館の歴史
新発田市には『シバタ文映』以外にも、『新発田銀座映画劇場』や『新発田文化映画劇場』といった複数の映画館が存在していました。
また、シバタレジャー会館内には1947年開館で2005年閉館の映画館があったほか、複数の小規模映画館も存在していました。
これらの映画館は、新発田市が映画文化の豊かな地域であったことを示しています。
特に昭和30年代から40年代にかけては、新発田市内に同時に3館の映画館が営業していた時期もあったようです。
当時の映画館は単なる娯楽施設を超えて、地域コミュニティの中心的存在として、文化情報の発信拠点として、世代を超えた交流の場として、そしてデートスポットとしての機能を果たしていました。
イオンモール新発田にシネコンが入らなかった背景
2005年に開業したイオンモール新発田は、新発田市西部の大型商業施設として地域の商業中心地の一つとなっています。
しかし、多くのイオンモールに入居しているイオンシネマは、同モールには設置されませんでした。
開業:2005年
所在地:新発田市住吉町
特徴:新発田市内最大級のショッピングモール
映画館:なし
立地条件:映画館があれば高い利用が期待される立地
一般的に、イオンモールへのシネコン設置については商圏人口と需要予測、既存映画館との競合状況、建物構造と設備要件、事業採算性の検討、地域の文化的需要といった要因が検討されます。
新発田市の場合、人口約91,000人という規模と周辺地域の状況から、当時シネコンの設置は行われませんでした。
現在のイオンモール新発田周辺は多様な店舗が入居する地域の商業中心地として、駐車場完備でアクセス良好な立地となっており、家族連れの利用が多く、映画館があれば高い利用が期待される立地条件を備えています。
映画館不在で新発田市民が直面する現実的な課題
20年間の映画館空白期間は、新発田市民の日常生活に様々な影響を与えています。
特に交通手段に制約のある市民にとって、映画鑑賞は簡単なことではありません。
新潟市まで往復1時間超の時間と交通費負担
新発田市民が最新の映画を楽しむためには、新潟市内の映画館まで足を運ぶ必要があります。
主要な映画館としては、ユナイテッド・シネマ新潟(DeKKY401内)、T・ジョイ新潟万代、イオンシネマ新潟西、イオンシネマ新潟亀田インター、シネ・ウインド(市民映画館)などがあります。
これらの追加費用は、特に家族連れにとって大きな負担となります。
家族での映画鑑賞の場合、映画鑑賞料金に加えて交通費も必要となるため、気軽に映画を楽しむことが困難な状況です。
子育て世代と高齢者が抱える映画鑑賞のハードル
新発田市の映画館不在は、特に子育て世代と高齢者に大きな影響を与えています。
子育て世代では、小さな子ども連れでの長距離移動の困難、ベビーカーでの電車移動の負担、授乳やおむつ替えのタイミング調整、子どもの機嫌や体調に左右される外出計画、家族全員分の交通費負担といった課題があります。
高齢者においては、長距離運転への不安、公共交通機関利用時の身体的負担、夜間の帰宅時間を考慮した上映時間の制約、付き添いが必要な場合の調整といった問題があります。
両者に共通する課題として、天候による外出への影響、交通渋滞などによる時間の不確実性、映画館選択の制約、上映時間に合わせた厳密なスケジュール管理が挙げられます。
これらの課題により、一般的に映画鑑賞が趣味だった市民も、頻度を減らさざるを得ない状況が生まれています。
文化的体験の機会減少が地域に与える影響
映画館の不在は、単に娯楽の選択肢が減ることを超えて、より広範囲な文化的影響を地域に与えています。
個人レベルでは、最新映画への接触機会の減少、映画を通じた文化的教養の獲得機会の限定、家族や友人との共有体験の減少、地元での余暇活動選択肢の制約といった影響があります。
地域レベルでは、文化的発信力の低下、若年層の地域外流出要因の一つ、地域内消費機会の減少、観光資源としての魅力低下といった問題が生じています。
社会的影響としては、世代間交流機会の減少、地域コミュニティ結束の弱化、文化的多様性への接触機会の限定、地域アイデンティティの希薄化が懸念されます。
2019年にイオンエンターテイメントが新発田市民文化会館で『アナと雪の女王2』の移動上映会を開催した際の反響の大きさは、市民の映画館への潜在的需要の高さを示すものでした。
同社は「映画館空白地域に、新作を届けたい想い」として極めて珍しい取り組みを実施し、多くの市民が参加しました。
署名提出後の市とイオングループの対応状況
11,310人の署名提出を受けて、新発田市および関係企業の対応が注目されています。
市民の強い要望に対してどのような検討が行われるのか、現状を整理します。
新発田市の映画館誘致に向けた取り組み方針
新発田市は署名を受けて、市民の要望を真摯に受け止める姿勢、映画館運営会社との橋渡し役を担う、署名をイオングループに提出する予定といった方針を示しています。
新発田市は自治体として、直接的な映画館運営は行わない、民間企業の経営判断を尊重、市民要望と企業側の事業性のバランスを考慮、必要に応じて誘致に向けた環境整備を検討といった立場にあります。
これまでの市の対応として、2025年1月31日に二階堂馨市長が7,500人分の署名を受領、2025年5月中旬に伊藤純一副市長が3,810人分の追加署名を受領、イオングループへの署名提出を決定といった対応を行っています。
市としては、市民の要望を企業側に確実に伝える役割を果たすとしており、民間企業の事業判断を待つ状況となっています。
イオングループとの協議の現状と今後
新発田市内にイオンモール新発田が存在することから、署名は同施設を運営するイオングループに提出される予定です。
運営会社:イオンエンターテイメント
事業規模:全国約90館のシネマコンプレックスを運営
特徴:ショッピングモール一体型の映画館が中心
新発田との関係:2005年からイオンモール新発田を運営
イオングループが新発田での映画館設置を検討する際には、一般的に商圏人口と需要予測、既存施設との競合分析、事業採算性の検討、建物構造上の制約、地域貢献との兼ね合いといった要因が検討されます。
2025年6月現在、イオングループ側からの具体的な回答や発表は確認されていません。
企業としては署名を受け取った後、内部での検討プロセスを経る必要があります。
11,310人の署名が示す市民の強い要望
今回の署名数は、新発田市の人口約91,000人のおおよそ8人に1人にあたり、市民の関心の高さを数値的に示しています。
- 新発田市民のおおよそ8人に1人が賛同
- 周辺地域を含む広域的な需要の存在
- 世代を超えた幅広い支持
- 家族単位での協力体制
署名活動自体が映画館問題への市民意識の向上、地域課題に対する市民参加の促進、新発田市の文化的ニーズの可視化、メディアを通じた全県的な認知度向上といった効果を生んでいます。
市民側では企業側での前向きな検討、市による積極的な誘致活動、実現に向けた具体的なロードマップの提示、地域全体での実現に向けた機運醸成といった期待が高まっています。
11,310人という署名数は、単なる要望を超えて、事業性を検討する上での重要な指標として位置づけられます。
映画館事業において、これだけの明確な需要表明があることは、検討材料として十分な意味を持つものと考えられます。
まとめ
新発田市への映画館復活を求める署名活動は、2024年秋の開始から約半年で11,310人の賛同を集め、当初の目標を大幅に上回る成果を上げました。
この数字は新発田市民のおおよそ8人に1人が賛同していることを示し、映画館復活への強い願いを数値化したものといえます。
20年間の映画館空白期間は、市民に時間的・経済的負担を強いるだけでなく、文化的体験の機会減少という深刻な課題をもたらしています。
特に子育て世代や高齢者にとって、新潟市まで映画を観に行くことは決して気軽なことではありません。
『新発田に映画館をつくる会』の椎谷和男会長をはじめとする市民有志の地道な活動により、この地域課題は広く認知され、新発田市からイオングループへ署名が提出される運びとなりました。
今後は民間企業の事業判断に委ねられることになりますが、11,310人の声がどのように検討されるか、地域全体が注目しています。
新発田市の映画館復活は、単なる娯楽施設の誘致を超えて、城下町の文化的豊かさの回復と地域コミュニティの活性化を目指す取り組みです。
市民の熱意と企業の事業性が結びついたとき、20年ぶりの映画館復活が実現するかもしれません。
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